「タッチでエキナカ」はバリアフリー時代に逆行する交通弱者搾取制度

コラムニスト伊是名夏子さんによる「JRで車いすは乗車拒否されました」のコラムが話題となっている。今回は筆者の親がJRに「入場拒否」されたので経緯と問題点をまとめたい。

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JR高尾駅はエレベータが無い

 前提知識としてJR高尾駅にはエレベーターが無い駅構内図を見ても分かる通り3,4番線から南口や北口に抜けるには階段かエスカレーターを利用し跨線橋を渡るしか無く、北口ならもう一度階段かエスカレーターを利用、南口に至っても改札を通るのに更に数段の階段を降りる必要がある。ワンオペでのベビーカーを利用したことがある方ならこれが如何に不便な環境かご理解頂けると思う。

経緯

JR高尾駅で私の親が入場拒否された経緯は下記の通り

  1. JR高尾駅に到着
  2. ベビーカー移動補助のために親が改札内へ
  3. 京王線駅員より今後は入場料を支払うように求められる

今までは「ベビーカー移動」という目的でのJR改札内への入場が許されていたのだが、3月13日から開始された「タッチでエキナカ」サービスにより「Suica」での駅構内への入場が150円かかるよう変更。これに伴い今まで同様の特例での駅構内への入場が認められないルールを徹底するように京王線側にも連絡が行ったようで今後は入場料を支払うように求められた。

問い合わせた結果

同サービスが想定する送迎や駅構内の施設利用では無く、また駅員の負担軽減のためにも関わらず「入場料」を求める対応に疑問を感じ各社へ問い合わせた結果は下記の通り。

京王電鉄高尾駅

  • 「原則駅の構内に入る場合は入場料が必要になるとJRさんから言われている
  • 「JRから入場料を取るように直接指示を受けた」
  • 「京王電鉄としては委託として南口を管理している立場なので黙認できない」
  • 「本来はJRの仕事だが京王電鉄駅員がベビーカーの移動補助をすることは可能」

JR東日本ご意見承りセンター

  • 車椅子同様に乗車駅で降車駅を伝えて」
  • 「ただし必ず対応できるかはお約束できない
  • 「駅員の人数も限られている」(←???)
  • 「バリアフリー補助等の目的でも無理」「ルールなので」
  • 「直接高尾駅に確認はしていない」
  • 「他のオペレータにも代われない」
  • 「このやり取りをSNSに公表しても構わない」「お客様の判断でどうぞ」

八王子市役所福祉部福祉政策科

  • 「担当部署に伝えておく」

問題点

例外は認めない

筆者はもともとJR東日本グループの正社員として勤めていたので分かるが、JRは極めて体育会系な社風である。新白河の総合研修センターではさながら軍隊のような研修が行われており、国鉄時代からの社員も多いため組合も強く組織体制はかなりの縦割りで「柔軟な対応」は全く期待できない。そのため今回の「ルールがすべて」「例外は認めない」結果も予測できたのだが、先日読んだこちらの記事では下記の記載があったので一縷の望みを掛けていた。

例えばトイレを急いで使いたい時など、例外は存在するか聞くと「一律的に何が例外というのは申し上げられない」とした上で、原則としては改札の中に入る場合、入場券の購入か「タッチでエキナカ」による入場が必要になるとした。

単なるベビーカーの移動補助目的での入場さえ例外として認められないのであれば例外など「存在しない」ということだろう。少なくとも「JR東日本ご意見承りセンター」はクレーム対応の窓口としてしか機能しておらず、こういった意見がJR本体に届くことはない。

駅員に迷惑が掛かる

筆者は先日炎上したJRの「乗車拒否問題」に関して駅員や他の利用者への迷惑を考えると対応は間違っていないと考えている。JR東日本の見解としても「要員の確保」を大きな課題として挙げている。しかし、今回のようなケースにおいては「駅員」に連絡するのをJR側として推奨しており、「ルール>駅員の負担」の構図が垣間見える。

ベビーカーでエスカレーター利用を促される

ちなみに南口にて京王電鉄駅員にベビーカーの移動補助をお願いした場合、移動を手伝ってくれるのはエスカレーターの手前までとなりそこから先は自己責任でエスカレーターにベビーカーを乗せる流れとなる。子育て経験がある方ならベビーカーでのエスカレーター利用の危険性はご存知だと思う。にも関わらず「京王電鉄駅員はJRホームに立ち入ることが出来ない」というルールのためだけに「危険:ベビーカーを乗せないこと」のマークの目の前で暗にベビーカーを乗せることを促されるのだ。万が一事故が起きた場合JR, 京王電鉄, 八王子市のどこが責任を取るのだろう。

バリアフリー未整備

引用元:はちなび

高尾駅が不便なのは今に始まったことではなく「高尾駅 エレベーター」「高尾駅 バリアフリー」等で調べると嘆きの声が数多く確認でき、駅員も

  • 「南口から北口に通り抜けるのに多くの方に入場料をお支払いいただいている」

と令和の時代に意味不明なことを仰っていた。だからベビーカー移動補助だろうが払えと言うのか。

なお高尾駅に関しては「南北自由通路の整備」「北口バスロータリー」等の周辺整備事業が2016年着工、2022年完成予定となっているようだが現時点で八王子市ホームページのスケジュールは未定。平成12年に要望書が市に提出されてから20年が経過しているのだが、いくらなんでも遅すぎやしないか。

感想

正直今回の各社の対応は飽くまで「ルールに則った」内容であり間違ってはいない。一番悪いのはこの問題を10年以上放ったらかしにしておいた八王子市であろう。しかしワンオペでのベビーカー移動が困難なことを理解している筆者としては問題提起せずにはいられなかった。JRの対応としては国鉄時代から続くJR東日本の組織体制そのものに原因があると思う。鉄道事故を防ぐために厳しいルールやそれに則った徹底した駅員の管理・教育が必要なのも理解できる。しかし、それを重視するあまり利用者の利便性や安全性を損なう理由となっては本末転倒ではないだろうか。

JR東日本は新型コロナウィルス感染拡大に伴う移動需要の減少により2020年度は5080億円の赤字となっている。そんな中掲げられたグループ経営ビジョン「変革2027」では「生活の豊かさ」を想像するため「子育て支援施設」の展開も行っているのだが、まずは子育てをする親の言葉に耳を傾け、組織体制の垣根を超えた柔軟なサービス提供が求められるのではないだろうか。


SNSの反応

前提知識想像力に欠けるツッコミが増えてきたので補足。この問題に関して議論が活発になること自体は良いことだと思うがTwitter上だと収拾が付かないため以降はコメント欄にお願いします。

入場料払え派

「遊園地」とか言う例え出してる時点で馬鹿丸出しなんだが、交通インフラと興行場の違いくらい理解なさって下さい。今回のケースでは入場後に電車に「乗る」「見る」「写真を撮る」等を楽しんでいるわけではありません。また、JRが「タッチでエキナカ」サービスの利用者として想定している「駅構内施設(トイレ含む)利用」や「南北通路通り抜け」も行っていません。親が駅まで迎えに行き駅員の代わりに対応することは寧ろこちら側が合理的配慮を行っている状態です。

同様に「ルールだから」と思考停止している方も居ましたがその「ルール」策定時に今回のようなケースを想定していないと思われるからこそ問題提起しているのです。金を払えば済むという考え方自体が障害者に対してタクシーを使えば良いと言ってるようなもの。

以前から派

こちとら18きっぷ散々使い回すほどには鉄道も利用してますし入場券が必要なことくらい分かってます。問題は3月に「タッチでエキナカ」が開始されたことにより駅職員及び改札業務の委託先に対し入場料徴収を例外なく厳守するよう通達され、駅員の裁量が狭められたことにあります。ルールだから守れという理論展開は現行の交通バリアフリー法の基準に則っていない高尾駅舎構造の特殊性を理解していません。

つまり以前なら「やむを得ない事情」として駅員個人の判断で看過していたケースが制度上難しくなったわけで今回のケースで言えばベビーカーを安全にホームまで移動させるためには下記の手順が必要となった訳で

  1. 記事内画像の通り大回りして駅北口に向かう
  2. 北口にて駅員にベビーカーの移動補助をお願いする
  3. 要員が確保されるまで待機(駅員の確保はお約束できない)
  4. 駅員付添のもと1,2番線からエスカレーターを利用し跨線橋に上る
  5. エスカレーターで3,4番線に折りる

これだけの手間が移動のたびに発生するのです。JRとしても4,5の対応に駅員が1人割かれる訳で高尾駅の1日の利用者数3万人に対し公共交通機関におけえるベビーカー利用者の割合(1~2%)を考慮するとJRとしても対応コストが馬鹿になりません。高尾駅のような特殊な事情が認められるケースにおいては駅長判断で入場を認めるようにしたほうが現場の駅員にとっても良いとは考えられませんか。

事前連絡しろ派

車椅子における事前連絡すら「移動の自由侵害」として裁判を起こされてますし、そもそも在来線移動における事前連絡先も公開されていません。JRは方針として駅の電話番号も公開しておらず、JR西日本のような「おからだの不自由なお客様のサポートダイヤル」すら存在しないのにどこに事前連絡しろと言うのか。乗車駅での窓口という話ならまだしも高尾から乗る場合は当日に北口に言って対応可能か確認するしか方法が無いんですよ。

駅員の介助はトラブルになる派

元のニュース記事ちゃんと読んだのか知りませんがベビーカー乗せたまま動かさないようにはマニュアルで徹底されています。上でも述べましたがルールがこうした特殊な駅構造を考慮した設計になっていないことを問題視してるのです。今回のサービス開始に伴う通達により駅員の裁量が無くなったことが遠因なんですよ。ちなみに対応工事進んでいるというソースはどこですか?駅は工事なんて未だに全くしていませんし八王子市HPのスケジュールも白紙のままで北口駅前が整備されただけですよ。

記事タイトルツッコミ派

5/10:SEO対策でタイトル修正

元タイトル:JRでベビーカーの移動補助目的は入場拒否されました(入場料必須)

単に某氏のコラムの記事名に合わせただけです。同様に「炎上」したのは車椅子側とか真面目に突っ込んでる人は狙って話題に乗ってる意図とか行間読み取れるようになって下さい。やりたいのは飽くまで問題提起なので人の目に付かなければ議論も発生しないし意味ないんですよ。

市に言え派

記事内でも触れている通り一番悪いのは「八王子市」だと思います。しかし現実問題として市が「入場券補助事業」の対象を拡大するために議論を重ね予算を組み実際に制度が始まるのは何年も先となります。その頃には少なくとも現時点で困っている家庭の子供は大きくなっており、自由通路もさすがに完成しているでしょう。そもそも20年以上かかっても周辺整備が進んでいない現状および今回の電話口における対応を考えると市に対応を期待するだけ無駄だと思いませんか。

フットワークの軽さという観点で考えると現実的に改善を期待できるのは一企業であるJR東日本しかありません。グループ経営ビジョンでは以前から「地域密着」を掲げており、今回の訴えはその目的にも沿った内容だと考えています。今回のようなアプローチ自体が強硬的であると考えるならば寧ろ解決方法をコメントにて頂きたい次第です。


5/10追記

JR東日本のご意見・ご要望の受付より問い合わせた結果は下記の通り

このたび頂戴いたしましたご要望につきまして、回答に時間を要しましたことをお詫び申し上げます。
弊社では、乗車以外の目的で駅構内に入場される際は、恐れ入りますが、入場券をお求めいただいております。
なお、乗降のお手伝いなどが必要な場合につきましては、駅社員にお申し出ください。

まあ予想通りのテンプレ回答だが驚くべきは回答に要した時間、本件を問い合わせたのは4月17日で回答メールが届いたのは5月10日。このテンプレ回答までを用意するのに23日も掛かっており回答した担当者氏名すら記載されていない。お客様用の相談窓口を用意しているBtoC企業としてはあり得ない対応ではないだろうか。

このようなお粗末な対応しか出来ないのは前述している通りJRグループの企業体質に問題がある。JRは完全な縦割りのトップダウン構造であり、恐らく本回答をした部署は「タッチでエキナカ」制度に関する問い合わせを企画部に伝える権限を有していない。つまり単なるクレーム対応窓口としてしか機能していないのだ。

ちなみに天下のAmazonで「とあるキャンペーン」の不具合を問い合せたところ当日中に企画部署に確認、翌日には不具合修正が行われた旨を回答頂くことができた。企業としてのスピード感に雲泥の差があると言わざるを得ない。殿様商売体制のJRが今後、本当の意味で「お客さま」と向き合う日は来るのだろうか。

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コメント

  1. Autobunks より:

    組織が大きくなると決定権者まで声が届くのには時間もかかり、しかも迷路!
    JRとかNTTとか殿様系の企業の末端は本当に酷い。そしてクレームは声も届くことも無く潰される。
    本当に導入を希望されるなら効果的な場所に要望を依頼しないと立ち消えますよね。
    手段としては決定権者を調べ上げて外堀を埋めて、最悪メディアに取り上げてもらう方法が確実ですかね。
    ただ、メディアもお金が絡んでいるので面白かったり、話題に上がって人目を引く内容にしないと取り上げて貰えないので戦略が必要になります。
    マツコさんの番組当たり『JR高尾駅エレベーター無い問題』みたいな感じで取り上げてもらう方法で前情報を他場で渡せば上手くやってくれそうな気がしますが甘いですかね。