パルワールドはポケモンのパクリ?法的リスクと感情論の境界線

1/19のリリース後、わずか4日で売上本数600万本を達成しXのトレンドに入り続けるなど話題を集めている『パルワールド』。普段ゲームを遊ばない層にも情報が届き始めたことで「ポケモンのパクリ」「ARKのパクリ」「最強任天堂法務部ガー」等のノイズが目立ちだし、遂には誹謗中傷や殺害予告を行う輩まで現れ始めた。

そこでゲームブロガーであり個人ゲーム開発者でもある筆者の見解を可能な限り中立な視点でまとめてみたい。

どんなゲーム?

Palworld | Early Access Launch Trailer | Pocketpair

『パルワールド』は『クラフトピア』で知られる国産ゲームメーカー「ポケットペア」が開発するオープンワールドサバイバルクラフトゲーム。

某人気ゲームシリーズを彷彿とさせるキャラクター「パル」たちの捕獲・育成だけでなく、拠点での労働や銃撃・爆破・密漁・解体までできる圧倒的な自由度の高さが最大の特徴。シームレスに広がるオープンワールドの探索要素や素材を集めての建築、パル同士の繁殖・遺伝に農業や工場の自動化など最近の面白いゲーム部分を抽出し混ぜ合わせたような作品。現在はアーリーアクセス期間だが動作は比較的安定しており最大32人までのマルチプレイにも対応している。

Steam, Xbox向けに好評配信中。

パクリなのか?

『パルワールド』のリリース開始以降Xでは連日「◯◯は◯◯のパクリ」といったパクリ論争が激化しており、中にはネタ抜きのレベルで怒り開発者やアーティストに殺害予告を行う人まで出始めてしまった。

実際問題として『パルワールド』は本当にパクリに該当するのか過去の判例をもとに考えてみたい。

エムブレムサーガ裁判の例

今回の件における著作権法違反や不正競争防止法違反の可能性を考えるに際し最も参考になるのはエムブレムサーガ裁判(ティアリングサーガ裁判)の判例だと思われる。もし『パルワールド』が著作権法違反あるいは不正競争防止法違反していると本気で考えている方がいる場合、上記リンクの記事や裁判の詳細をまずは自身で調べてみてほしい。

法的観点

上記判例を今回のケースを当てはめてみると『パルワールド』に関しては法的には限りなく白であると推測される。一つずつ理由を解説してみよう。

不正競争防止法違反

エムブレムサーガ裁判における争点の一つが「不正競争防止法違反」であり、最終的には高裁判決で違反が認められ同ソフトの販売総額3%にあたる約7000万円の支払いが命じられている。この判決に至った理由としては

  • 関連作と誤解を生じさせうる似通ったタイトル
  • 制作者がメディアインタビューでシリーズ続編であるかのように受け答え
  • 制作者がシリーズの関連を思わせるインターネットへの書き込み

などが原因であり、そもそも『パルワールド』では某シリーズ作の外伝作品として認識している人はSNS上でも見当たらないので混同は生じていない。制作者もタイトルも全く異なる上に発売しているハードがPC, Xboxである点からも需要者の間で混同が生じている可能性は考えづらい。『パルワールド』が不正競争防止法違反の可能性はまず無いと考えられる。

著作権法違反

著作権法違反に関しては上記裁判で任天堂の訴えが認められなかった部分なので違反となる可能性は低い。

ゲームデザイン

Xではゲームデザイン部分として『ARK』等のタイトルとの類似性も指摘されているが、普段Steamを利用している方なら一般常識として分かる通りこれは特定ジャンルのフォロワー作品として作られる以上ごく当たり前のことである。『パルワールド』のゲーム内における各要素は他のゲームでも採用されている仕組みではあるものの、他の数多のオープンワールドサバイバルゲームでも採用されているような要素ばかりで複製・翻案であるとは考えづらい。

同裁判ではUIや武器のパラメータまで一致していたにも関わらず著作権法違反が認められなかった以上、ソースコードを流用している証拠が見つからない限りは実装面における著作権法違反の指摘は困難であると推測される。

モンスターデザイン

SNSで「パクリ」として指摘されて炎上しているメインはモンスターデザインだろう。確かにX上の例として挙げられているモンスターの画像はポケモンのキャラクターを連想するようなデザインに見えるし、著作権法違反だと確信する人が出るのも納得できる。

しかし、法的観点において著作権侵害と判定されるには主に下記の基準を確認する必要がある。

(参考:著作権侵害はどこまで追及される?著作権法の違反事例を交えながら弁護士が解説著作権侵害となる5つの要件|著作権法に違反する基準とは?

  1. 著作物であること
  2. 依拠性が認められること
  3. 同一性・類似性があること
  4. 著作権の利用行為があること
  5. 著作物利用の権限を持っていないこと

この中で争点となるのが3の同一性・類似性の部分。パクリ元とされるデザインが「ありふれた表現」「歴史など周知の事実」ではないことを示す必要があるのだが、某ゲームはその性質上これが困難だと考えられる。そもそものキャラクターモチーフの多数が周知の動物や神話上の生き物であり、それをキャラクター化する上で表現上における創作性を証明するのは非常に難しい。実際エムブレムサーガ裁判においても創作性に関する任天堂の訴えは「ごくありふれたもの」として裁判所から一切認められていない。この辺りはデザイナーが書いた記事も参考になりそう。

具体的にはパクリだと騒がれているペンタマも「ペンギン」をキャラクター化する上でその構成要素的に必然的に似通ってしまうため依拠性の証明が困難であり、「ホークウィン」に関しても羽の色味を「創作性」として主張するのは無理筋がある。つまるところ他のキャラクターにおいても元となる動物や神話上の生き物がいる以上、3Dモデルを流用(疑惑については後述)した完コピでも無い限りは著作権違反と判断される可能性は低い。属性に基づく特定の色の組み合わせを創作性と主張するのも厳しいだろう。ちなみに色違いとそっくりだった某キャラはPVのみで本編には登場していない。なお本作はアーリーアクセス版のため今後キャラクターモデルが差し替わったり削除・追加される可能性もある。

親告罪

以上のように不正競争防止法・著作権法違反の観点では違法性があるとは考えづらい。社長のAUTOMATONでのインタビューでも下記の通り答えている。

「発売できるのか」というのは少し過激な質問ですが、弊社は真剣にゲーム作りに取り組んでおり、当然ですが、他社の知的財産権等を侵害する意図は全く御座いません。法務のレビューも受けており、現時点で他社様から何らかの具体的なアクションを頂いた事も御座いません。インターネットでは様々な噂が飛び交っておりますが、安心してご購入頂ければ幸いです。

そもそも著作権違反は親告罪であり、訴訟を判断するのはゲーフリや任天堂で実際に依拠性や類似性を判断するのは裁判所である。外野が法的な判断を無視して「パクリ」呼ばわりすることは名誉毀損で逆に訴えられる可能性すらある。Xで度々見かける「明らかな著作権侵害」等の主張は現時点では「それ『明らか』じゃなくてあなたの感想ですよね」という話。

そもそも『パルワールド』が最初にトレーラー発表されたのは2021年6月5日。アナウンストレーラーやその後の動画でも類似したパルが登場していたが開発側が警告を受けた報告が無い以上、ラインは超えておらず権利者側も黙認している状況ではないだろうか。

感情論の部分

以上のことから『パルワールド』における法的問題は現状ほぼ無いと思われる。ではX上の人々は何に対して憤りを感じているのだろうか。

リスペクトが無い?

多く見られるのは本家シリーズ作品に対するリスペクトが無いという主張。具体的には

  • 生成AIのような組み合わせによるキャラクターデザイン
  • キャラクターに対する銃撃・爆破・解体等の行為
  • 意図的に寄せることでの乗っかり広告戦略

あたりがよく見られる。AI疑惑については次項で後述する。

既存シリーズにおいて愛情を持って育ててきたモンスターに類似したキャラが暴力行為を受けたり、残虐な行為を行われることに対する心理的抵抗感は一定の理解ができる。とはいえ『パルワールド』は別のゲームであり、方向性が異なる以上この解決は難しい。何でもありな自由度が売りである以上、こういった要素を削れば魅力がそのまま削られてしまうので気になるプレイヤーがプレイングとして避けるしか無い。なお筆者の経験則上はどんなにリアルなグラフィックでもプレイ時間を重ねることで脳内で記号化されるので抵抗感を感じるのは最初だけだとは思う。まずはプレイしよう。

広告戦略に関しては個人ゲーム開発者の立場として言わせてもらうとこれもやむを得ない部分はある。まずそもそも完全に新規IPのゲームを人にプレイしてもらうのは無茶苦茶ハードルが高い。販売するストアにもよるしパブリッシャーとしての評価や知名度にも依存するが基本的に作品というものは一般層に見向きもされず認知すらされない。だからこそ世の大手ゲーム会社は何十億という金を広告費に費やしており、FF16における広告費は30億円?と推計する記事まである。開発としては兎にも角にも作品を知ってもらわないとスタート地点にすら立てないのだ。『パルワールド』は知っててもMMO化させたフォロワー作品の『Temtem』を知らない人も多いのでは。

ポケットペアの開発ノートを読んでいただけると分かるが開発には約10億円が掛かっており、CMやWeb広告が無いことからもほぼ全て開発費に消えたのだろう。『パルワールド』は予算がほぼ開発資金として充てられたからこそアーリーアクセスとは思えないクオリティに仕上がり、内容の過激さが相まってSNSやWeb記事として拡散されて広告費を削減できたのである。

世のゲーム開発者の思いはシンプルに「面白いゲームを作りたい」という点に尽きると思う。しかし、インディー開発においてはその資金力の弱さによる開発期間の制約や広告戦略の難しさ、サーバーの構築運用やローカライズ、テストなど問題が山積みである。そこで企画する側は「ひと目で伝わる」「バズりそう」「もちろん面白い」内容のゲームを考える必要性がある。ゲームは見た目が9割なのでビジュアル部分を意識的に寄せることで話題を集めたポケットペアの戦略は見事だと言わざるを得ない。この取捨選択やリソース配分に関しては「ゲームは面白ければ良い」のか各々のゲーム文化に対する許容ラインやスタンスの違いでしか無い。

生成AI疑惑について

生成AIに関する疑惑も出ているが現時点で何かしらの生成AIを使用した証拠は無い

  • 社長がAIツールでのモンスター生成に興味を示していた
  • ポケットペアが「AIアートインポスター」というゲームをリリースしている

といった情報にキャラクターの見た目のデザイン問題が相まって反AIの人々が脊髄反射で反発している状況。ちなみに『パルワールド』におけるキャラクターの大部分は一人のアーティストが描いている

3Dモデル抽出疑惑

X上では某ゲームからの3Dモデル抽出疑惑が出始めているのだがデマの可能性が高く普通に名誉毀損。根本的に元のゲームから3Dモデルを引っこ抜くこと自体が違法なのでこの報告をしている人間は自ら違法行為を行って抽出した3Dモデルをもとに重ね合わせもせず左右に並べて「そっくりでしょ!」と訴えている謎の状況。

遊んで判断するべき

X上では色々とネガティブな話題が多い『パルワールド』だがSteam上では93%が好評の「非常に好評」ステータスとなっており、国産ゲームの歴史を塗り替える勢いで記録を更新し続けている。はっきり言ってお祭り状態であり某ゲームの販売本数と『パルワールド』の販売本数の差を考慮してもノイジーマイノリティが悪目立ちしているだけでゲーマーの大半はこの祭りを楽しんでいるように思う。筆者がプレイした印象としては少なくともX上で例に挙げられているようなキャラクターは一部だが、プレイ感としてはSEやUIを含めた寄せ方がいっそのこと清々しい。無論この露骨に寄せている部分を「ズルい」「下品」だと感じる人も居るとは思うので何はともあれ「自身が遊んで判断する」べき。

XboxやPCが無い方も『パルワールド』は「Xbox Cloud Gaming」に対応しているためスマホでクラウドプレイが可能。ゲームパスにも含まれているので初月100円で遊べてしまう。

そこそこのスペックのPCがある方ならSteamで購入して2時間プレイして気に入らなければ返金申請すれば良い。プレイすれば秒で全く異なるゲームだと分かるし、1時間も遊べばゲームとしての面白さは理解できるはず。先入観だけで遊ばないのは余りに勿体ない魅力が『パルワールド』には詰まっているのだから。

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