共同通信の「報道の自由勧告拒否」に関する記事が話題となっているので詳細をまとめてみる。
概要
政府「報道の自由」勧告を拒否 - 国連人権理審査でhttps://t.co/jdgjXdADH8
— 共同通信公式 (@kyodo_official) 2018年3月7日
共同通信によると国連人権理事会による人権状況の審査について、特定秘密保護法などで萎縮が指摘される日本政府は「報道の自由」に関する勧告を拒否した。米国やオーストラリアなどは放送法4上の改正などでメディアの独立性を一層確保するように求めていた。
問題点
どうにも該当記事のミスリードによって誤った印象を抱いている人が多いと思うので問題点をまとめてみる。
拒否したのは一部
意図的か不明だが記事では
217項目の勧告を受諾するかどうか、項目ごとに見解を公表した。
と項目数のみ書かれており、具体的な拒否項目と受け入れ項目が書かれていない。
【国際】報道の自由 勧告を拒否 国連人権理審査で日本https://t.co/h347x7Btse
— 東京新聞(TOKYO Web) (@tokyo_shimbun) 2018年3月7日
調べた限りで唯一内訳を示していたのは東京新聞の記事。記事に読むと
百四十五項目を受け入れたが、死刑廃止要求など三十四項目を拒否、三十八項目は一部受け入れや留意とした。
ということが分かる。割合で言えば勧告のうち拒否されたのは全体の15%にしか過ぎない。
勧告内容の是非
そもそも勧告項目自体が正しい内容なのかも疑問が残る。記事を読んだ方は分かる通り217項目の中には
- 中国が要求する慰安婦問題への謝罪と補償
- 韓国が要求する構成的な歴史教育の実施
- 死刑制度の廃止要求
- 核兵器禁止条約の署名を求めた勧告
なども含まれている。要するに「各国基準」で要求された項目の詰め合わせパックみたいなもん。これを素直に全部受け入れるほうがどうかしている。「核の傘」に守られている状況の日米関係に影響がある「核兵器禁止条約」の話題も盛り込まれており、現実問題・政治状況に配慮したデリケートな要求ではない。
放送法第四条
話題となっている「報道の自由」に関する勧告についてだが、具体的には「放送法四条の改正」が求められている。放送法第4条を確認すると下記の通り。
(国内放送等の放送番組の編集等)
第四条 放送事業者は、国内放送及び内外放送(以下「国内放送等」という。)の放送番組の編集に当たつては、次の各号の定めるところによらなければならない。
一 公安及び善良な風俗を害しないこと。
二 政治的に公平であること。
三 報道は事実をまげないですること。
四 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。
2 放送事業者は、テレビジョン放送による国内放送等の放送番組の編集に当たつては、静止し、又は移動する事物の瞬間的影像を視覚障害者に対して説明するための音声その他の音響を聴くことができる放送番組及び音声その他の音響を聴覚障害者に対して説明するための文字又は図形を見ることができる放送番組をできる限り多く設けるようにしなければならない。
読んで頂ければ分かる通りマスコミは「既に違反している」状況である。現在の報道が「政治的に公平」とは思えないし「事実を曲げた」内容を報道し謝罪すらしない新聞もある。テレビで「多くの角度から」論じている場面など見たこともない。これらに違反した場合には政府は放送法に則り放送局に対して電波停止を命じることが出来る。にも関わらず有史以来一度も「電波停止」を命じたことが無いあたり、日本における「報道の自由」は十分に確保されているのではないだろうか。
今回の「報道の自由」関連の話はこの「電波停止権」すら無くしてマスコミを完全に独立させろという無茶な要求である。放送に関する権利関係のイメージは総務省が公開している「放送分野における報道・表現の自由を守る取り組みとその課題」を確認して欲しいが、放送事業者を唯一規制可能な「砦」を取り除くことは「日本」のために良いことなのだろうか。放送事業者の「偏向報道」を更に加熱させる要因になりかねない。
感想
共同通信の報道自体がむしろ「印象操作」を行っており、暗に放送法第四条の必要性を説明している皮肉な状況となっていた。個人的には現状のマスコミの報道姿勢には疑問を持っており、その傾向を助長させる「放送法の改正」は国益的にも悪影響でしかないと思う。また、記事内容を鵜呑みにしてソースを調べない受け取り側にも問題があるだろう。「報道する側」が規制を撤廃したいというのは当たり前でマスコミ側・政府側の思惑をしっかり考えねばならない。
現状の日本の報道は常に炎上記事でPV数稼ぎしているような状況で「政治的に公平」「事実の報道」「多くの角度から」など微塵も意識していない。逆にここまで「自由に報道」できている国があるだろうか。今回の件は飽くまで相関図を元に「政府干渉可能な状況」を無くせと言っただけで現在「政府干渉が行われている」と指摘した訳ではない。また、「報道の自由」ランキングの低下原因としてデビット・ケイ氏は「記者クラブ」問題について触れていたはずだが今回も触れているメディアは存在しない。自身に不利な情報は公開せず、権利ばかり主張するのは「報道」として如何なのだろうか。
ネットメディアとして自由に掛ける立場だからこそ反対の意見もまとめてみた。今後、「放送法の改正」ではなく報道の姿勢の変化によって国民の「知る権利」が担保される状況となることに期待したい。