新潟県阿賀野市で登山中に遭難した小学1年生男児と父親のニュースが話題となっている。春山登山で相次ぐ遭難を防ぐためにはどうすれば良いのか。対策をまとめてみる。
目次
山岳遭難の実状
昨今の登山ブームにより遭難の発生件数は年々増加傾向にある。平成28年度の山岳遭難の発生件数は2,495件、遭難者数は2,929人と過去2番目に高い数値で死者・行方不明者も相次いでいる。
分析
遭難者の内訳を目的別に見ると「登山」が71.7%と最も多く、次ぐ「山菜・茸採り」の13.2%を大きく引き離している。
年齢別では40歳以上が全体の77.5%、更には60歳以上が50.6%と高齢者が占める割合が非常に多い。
単独遭難者における死者・行方不明者は割合は18.6%を占めており、この数値は複数登山における割合(7.0%)に対して11.6%も増加している。単独登山の場合は遭難時の死亡・行方不明リスクが高まることに気をつけたい。
対策
実力に見合った登山計画
山岳遭難の多くは登山計画時点で発生していると言える。参加者の体力・経験を考慮し、適切な山・登山コースを選択すれば防げる事故が殆どであり、滑落注意のポイント等も事前に把握しているか否かで危険度が全く異なる。余裕のある安全な登山計画を立てることを意識したい。
具体的には登山経験が少ない内はマイナーな山・登山コースに挑戦する事は控えること。登山者の多い定番登山コースならば遭難することはまず無い。最初のうちは初心者向けの山から始め、順にステップアップしていこう。また、転落・滑落した場合も遭難リスクが高いので事前に危険箇所を把握し注意喚起しておくこと。
コースタイムは参考程度に捉え余裕を持った計画を立てる。怪我など不慮の事態も考えて引き返しの判断基準となる時間・ポイントを明確にしておこう。
グループで登る
遭難を防ぐためには単独登山は出来る限り避けたい。前述した通り、単独遭難者の死者・行方不明者は割合は18.6%と複数登山よりも10%以上高くなる。足を滑らして滑落・骨折し助けも呼べない状況の絶望感は想像に難くない。ソロ登山の場合はより入念な準備・計画をたてるように注意しよう。
信頼できるリーダー
複数登山の場合は必ずリーダー(サブリーダー)を決めておくこと。単なる仲良し登山の場合、トラブル時に意見の相違が発生し被害が拡大するリスクがある。技術・知識・経験・意識の面で信頼できるリーダーを決定しておこう。
リーダーは登山計画を入念に準備・確認し、各メンバーの実力(体力・経験)と照らし合わせても無理がない計画か再確認。登山当日は列の最後尾で全体のペースを確認、または先頭でコース判断を行う。目的は「山頂に登る」ことではなく「全員を無事に下山させる」ことなので適切な指揮を意識したい。
また、各メンバーも「お客さん意識」で参加するのでははなく、一人ひとりがコースを確認し自己責任の元で準備し登山に臨むようにしたい。
登山届の提出
山岳救助隊の方々も来てくれています!登山に行かれる際は必ず登山計画書の提出をお願い致します! pic.twitter.com/W7ApSTBvo6
— 奥多摩観光協会 (@OkutamaKanko) 2018年4月28日
調べればどこでも言われていることだが「登山届(登山計画書)」は必ず提出すること。これは緊急時の捜索以外にもちゃんとした行動計画を立てる目的や、同行メンバーと山行情報を共有をする目的も含まれている。
最近はオンライン上で登山届の作成・共有が可能な登山情報サービス「コンパス~山と自然ネットワーク~」も存在する。自治体や警察とも連携しており、メンバー・家族との共有にも便利なので上手く活用して欲しい。
万が一に備えて…
万が一の事態に備えて十分な食料・水は勿論のこと、各種サバイバルグッズも用意しておくと、有事に慌てず冷静に行動できる。比較的安価に揃えられるものを例として挙げてみる。
サバイバルシート
トラブルで動けなくなり、一夜を明かす事態になった際に最も注意したいのは雨や風による体温低下である。登山用の上着では対応しきれないケースも想定し、防寒・保温用の「サバイバルシート」を持っているだけで状況は全く異なる。価格も安いのでお守りがわりに用意しておくと良い。
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予定していた所要時間をオーバーし周りが暗くなってきた場合にもヘッドライトがあれば全く行動できなくなる事態は避けられる。無論、夜間の完全な暗闇の中で動くことは滑落・遭難リスクも高くお勧めできないが、暗くなり始めのタイミングでは有効活用可能。「明かりがある」という安心感だけでも気持ちの落ち着きが全く異なる。
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火打ち石として使える「ファイヤースターター」があれば、火花を出して紙に着火させ火を起こせる。夜間の動物避け、暖を取る、のろしなど火を起こせるか否かで状況は全く変わってくる。使用は緊急時に限定し、山火事に十分注意すること。こちらも安価なのでお守りとして一つ持っておきたい。
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人が近くを通る可能性があり、自力で動けない場合はホイッスルでの遭難信号発信も有効。1分間に6回(10秒に1回)の割合でホイッスルを鳴らし、1分間休むを繰り返すと緊急信号の発信となる。余談だが熊よけの鈴も用意しておきたい。
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続いて実際の登山時に道に迷い遭難した場合の対処法。
冷静になる
まずは「落ち着こう」。道に迷った時点で1分、2分を急いだところで状況は変わらない上、誤った判断をすると大幅な時間のロスとなる。全員でその場に立ち止まり今までのルートを確認、地図やGPSを活用して現在地や状況を確認し「戻る」「ビバークする」「救援要請を行う」「(制限を定めた上で)進む」等の判断を行う。
重要なのは「進む」場合は時間・距離等の明確な制限を定めること。「~分間歩いても登山道に合流しなかった場合は戻る」等を決めてから行動する。周囲をよく観測しながら歩き、登山道の目印となる赤テープが周りに無いか確認しよう。
登山道に戻る
道に迷った際に最優先するべきことは「正しいルートに戻る」こと。来た道を思い返し「どこまで正しいルートだったか」「どこで道を誤ったか」にアタリを付ける。GPSやコンパスで概ねの現在地が分かるならば近くの登山道への合流を目指すのも良い。ただし、飽くまで現在地にアタリが付く場合に留めよう。希望的観測による不用意な行動で更に迷ってしまうケースも後を絶たない。
登る
登山で迷ったら「登る」は鉄則である。登り続ければ必ず尾根や頂上に突き当たり、そこには登山道が必ず存在する。他の登山客も通り緊急時も捜索がしやすい。見晴らしが良い場所でルートを確認してから下山を目指すことも出来る。
逆に絶対にやってはいけないのは「沢沿いに下る」こと。沢伝いに歩けば麓まで下りれそうな感じがするが、実際は途中で高低差がある滝にぶつかって全く下りれない上に滑落の危険性も高い。
救助要請
滑落による骨折等で自力下山が困難な場合、携帯電話で救助要請を行う。基本的には警察(110番)に連絡すれば良い。下記の情報を一通り伝えること。
- 氏名
- 事故者の氏名
- 怪我の状況
- 事故発生場所
- ヘリコプターの必要性の有無
- 連絡先
事故発生情報が入ると基本的に管轄の警察・消防が出動して捜索が行われる。しかし、人手不足の場合は民間の救助隊に出動が依頼され、この民間の救助隊は有料となる。救助費用は1時間あたり50万~と高額になるため山岳保険の加入も検討しておきたい。
備えあれば憂いなし
多くの山岳遭難事故が山に対する認識の甘さ、準備不足が原因となっているため、十分な準備の上で臨めば登山は危険なものではない。自分に合った山を選ぶだけでも事故はまず起きなくなる。楽しい登山をするためにも上記の注意事項を山行に気を引き締めて入山して欲しい。