Twitter上で「ブルーライト」がトレンド入りしており、ライフハッカーが付けたタイトル詐欺に踊らされている人が多いので注意喚起。結論から述べるとブルーライトカット眼鏡自体にはちゃんと効果がある。
10/9追記:記事タイトルが分かりづらかったため変更しました
概要
米国眼科学会「ブルーライトで視力は低下しない。PC用メガネも推奨しない」 https://t.co/QUdSFvm58J
— ライフハッカー[日本版] (@lifehackerjapan) 2018年10月1日
事の発端となったのは株式会社メディアジーンが運営するウェブメディア「ライフハッカー[日本版]」の記事。「米国眼科学会「ブルーライトで視力は低下しない。PC用メガネも推奨しない」と衝撃的なタイトルで注目を集め広告収入で荒稼ぎしている。記事を翻訳したのはフリー翻訳家の春野ユリ。
翻訳元
VERY IMPORTANT
Digital screens can cause long-term eye damage, according to studies.
The irreversible damage the light from screens produces in the eyes is more serious than previously thought and, RETICARE is much more effective than previously believed.https://t.co/FFSRJ8ObkZ pic.twitter.com/iQBw0IFDff— Reticare USA (@reticare_usa) 2018年9月12日
翻訳元となった記事は米ライフハッカーの「Smartphones Aren’t Ruining Your Eyes」の記事。直訳すると「スマホは視力を低下させない」という見出しで、内容もスマホ用フィルムを販売するReticare USAの「スマホを使うと失明する!(=だからウチのフィルムを買って保護してね)」という主張に対する反論となっている。Reticareの胡散臭さは公式HPを見れば明らか。
SNSの反応
元記事は飽くまで「スマホで失明することは無い」の主張に留まっているにも関わらず、記事内容のご都合解釈と妄想の入り混じった意見がSNS上では散見される。
某メガネ屋おかかえのPR会社から直接聞いたよ。
「売れるための空気作りのためにブルーライトの研究所サイトを作った」って。担当者は文系。だいたい「直接網膜に届くから青い光は危険!」って、全ての色は網膜に届くから知覚出来てんだぞ。
ちなみに中2で習う内容ね。https://t.co/WaJTzg0bmU— どーも僕です。(どもぼく) (@domoboku) 2018年10月1日
わはは。最高。 https://t.co/3Zhj3JZG5u
— 堀江貴文(Takafumi Horie) (@takapon_jp) 2018年10月1日
ブルーライト半端ないって。あれは半端ないって。視力落ちるとか言われてたのに低下しないこと証明されてるもん。そんなんできひんやん、普通。
https://t.co/4wxKhMtm7N— 大迫はんぱないbot (@osako_hanpa) 2018年10月2日
だからずっと言い続けているではないか、「ブルーライトをカットするPC用メガネ」はニセ科学だとhttps://t.co/W3Cq3LFekF
— ultraviolet (@raurublock) 2018年10月1日
問題点
誤った情報の拡散
No, smartphones aren’t ruining your eyes: https://t.co/gjGtge86xq pic.twitter.com/1qLKONh79j
— Lifehacker (@lifehacker) 2018年9月26日
米ライフハッカーの元記事が誤情報に対する注意喚起に留まっているにも関わらず、日本版ライフハッカーでは「視力が低下しない」「推奨しない」と誤った情報を拡散させる真逆の内容となっている。
元記事を要約すると
- Reticareの広告(スマホは網膜を傷つける)に科学的証拠は無いよ
- AAO(米国眼科学会)もスマホで失明はしないと明言してる
- スマホ失明は片目で見てると起こりうる
- 科学的効果が示されてないから、ブルーライトカット、フィルムをAAOとして推奨はしない
- けどブルーライトは睡眠の質を低下させてドライアイになる可能性があるから、長時間スマホは使わないでね
これをどう訳したら「視力の低下に関連性はない」「副作用は不透明」の見出しになるのか。「スマホで失明」という誤った情報、研究結果を元にした販売促進が海外で流行しているという前提情報を全く載せず、「問題の研究」という文言をいきなり書く神経が分からないし、「失明しない=視力低下しない」ではない。しかも原文では眼鏡(glasses)という単語すら出ていない。タイトル釣りでPV数しか意識しておらず、内容は完全に別物になっている。こんな事ばかりしてるからマスゴミ呼ばわりされるのだ。
推奨しないのは当然
AAO(米国眼科学会)が推奨しないのを「意味がない」と勘違いしている輩も存在するが、学会として科学根拠が無いものを推奨できる訳が無いだろう。長期的な研究と実証を重ねた上で学会としての見解を示さなければならない訳で、「ブルーライトカット」自体の効果を否定しているわけではない。
人間の眼にブルーライトに強く反応する受容体が存在することは研究でも分かっている(Natureの論文)。「青」に強く反応する理由についてハーバード大学医学大学院の睡眠研究者は次のように述べている。
哺乳類は食料を得るために夕暮れ時や明け方に行動していた。この時間帯の太陽光は青色が少なく、オレンジ色が多い。視認するために青色の光に敏感になったのだ。
引用元:スマホの「ブルーライト」をカットすれば、本当に寝付きはよくなる?
ブルーライトに強く反応する受容体があることは明らかだが、実際の人間の眼における反応・長期的影響までは研究結果が示されていないだけ。ブルーライト=悪影響と言える段階ではないし、無影響という結論も存在しない。
失明しない為か?
【誤訳注意】「ブルーライトで視力は低下しない。PC用メガネも推奨しない」って記事がバズってますが、米国眼科学会の発表は「ブルーライトで”失明”しない」であって、視力の話は一切してません。
米「ブルーライトで失明」記事バズる⇒学会が否定⇒日本で視力の話にすり替わるhttps://t.co/aCaD93rWX8— Podoro (@podoron) 2018年10月2日
以上の情報から「ブルーライトでは失明しない」「現状よく分からない」という状況は分かっていただけたと思う。では何のためにブルーライトカット眼鏡を掛けるのか、多くのケースでは「目の疲れを軽減させる」ためだと思う。少なくとも利用している人間はプラセボ効果ではなしに目の疲れ・痛みが軽減し、寝付きが良くなっている実感を感じられている。筆者もPCでブルーライト軽減用の画面設定をしてから目の疲れが明らかに減った。iPhoneでも「Night Shiftモード」が用意され各種Android端末でも同モードが搭載されていることからも、実感として睡眠導入に良い影響があることは明らかだ。今回の発表内容で「騙された!」と感じて良いのは「失明防止」目的でブルーライト製品を利用していた層に限られる。それを勝手に「ブルーライトカット製品」を使っているのは情弱と決めつけている側の情報リテラシーの低さには呆れてしまう。
感想
こういった過激な情報が出るたびに読者はソース元の記事・論文を確認して欲しいと思うのだが、仮にもネット記事を執筆するライターが全く論文に目を通していない主張をしていることには驚いた。ライフハッカーは誤った認識を拡散させてしまう前に記事タイトルの修正とお詫びを掲載して欲しい。