【電通初公判】違法残業事件の罰金が50万円で済んでしまう理由

電通の違法残業による過労死事件の初公判が22日、東京簡裁で行われた。

概要

電通社員である「高橋まつり」さんが2015年12月25日に自殺し、過労死として大手広告代理店「電通」のブラック企業としての実態が明らかになった事件。

  • 105時間を超える残業
  • 残業の過少申告
  • 連続勤務53時間
  • パワハラの実態
  • 電通鬼十則
  • うつ病の発症
  • 自殺直前の母親へのメール内容

など衝撃的な内容が多数メディアで報道され、大きな社会問題となった。

裁判内容

初公判は9月22日に行われ、法廷には電通の山本敏博社長が出廷した。長時間労働に対する刑事責任追及で企業トップが法廷に立ち、公開で裁かれるのは極めて異例。

山本敏博社長は起訴内容に対して「間違いありません」と認め「尊い命が失われたことを心より申し訳なく思う」などと謝罪した。

検察側は「会社の利益を優先させ、違法な残業が常態化していた」と指摘し、罰金50万円を求刑した。判決は10月6日に言い渡される。

SNSの反応

この求刑内容に対するSNSでの反応は以下の通り。

なぜ罰金50万円なのか?

労働基準法の罰則は次の通り規定されている。

1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金
  • 強制労働の禁止(暴力や脅迫などで、労働者を不当に拘束し、労働を強制した場合)
1年以下の懲役または50万円以下の罰金
  • 中間搾取の排除
  • 最低年齢
  • 坑内労働の禁止、就業制限など

つまり現在の労働基準法では拘束による強制労働をさせない限り、違反の最高刑は50万円なのである。

過去の事例を確認しても「ドン・キホーテ」「JCB」でも同様に罰金50万円が求刑されている。

罰金50万円は妥当か?

どうしても金額だけを見ると「軽い」「罰金を支払ったほうが得」などと思ってしまう。しかし、重要なのはそもそも罰金刑になること自体が珍しいケースであり、最高額であることからも「悪質性が高い」と判断されたことである。

公判を開かない略式起訴から「正式裁判」となったことも「違法残業は許さない」という当局の姿勢を示した形となっている。金額よりも電通ほどの大企業が「最高刑」「正式裁判」で裁かれた事実に意味があると考えられる。

また、今回の正式裁判によるメディア露出も企業にとっては大きなマイナスイメージとなる。企業イメージの低下により優秀な新入社員も獲得しづらくなり、営業も難しくなる。報道による「営業活動」「採用活動」の悪影響がより負担となることは間違いない。

そして、今回の罰金は飽くまで刑事上の罰金であり、これとは別に民事でも賠償金が発生する。例として1981年に過労自殺した男性社員の場合、1億6800万円を支払うことで和解している。なお今回の事件の和解金は明らかにされていない。

事件後の変化

電通は事件後に「働き方改革」として「労働時間の2割削減」に向けて取り組んでおり、山本敏博社長は最終意見陳述で労働環境の改善に取り組んでいることを述べている。メディアで大々的に取り上げられたことからも、同様の事件を起こさないために企業として取り組み始めている。

こちらのインタビュー記事でも事件後に広告代理店での「働き方」に変化があったことが窺える。今回の事件が業界に大きな影響を与えたことは間違いないだろう。

労働環境の改善に期待

現在、日本の多くの企業では同様の「残業隠し」や「うつ病の発症」も少なくない。筆者が以前勤めていた会社でも隣の部署では「残業の過少申告」「仕事の持ち帰り」が常態化しており、厚労省による是正勧告も受けていた。

ブラック企業に勤めてしまった場合、「鬱」になってから辞めるのでは対応が遅い。その前に転職や退職をすることが重要となる。家族や友人に相談するなど周りの支えにも頼りつつ、まずは「生きる」ことを大事にして欲しい。

ワークライフバランス」の不満度でダントツで1位の日本。電通のような企業トップが改善を試みなければ、今後もこの状態が変わることは無いと思う。業務の効率化を徹底し、同様の悲しい事件が起きないことを願いたい。

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