「NHKが映らないテレビ」はモニターなのか?ソニーと民法の思惑

7月6日にソニーから発売される「NHKが映らないテレビ」が大きな注目を集めている。本製品を発売するに至ったソニーの企業戦略と民法の思惑をまとめてみる。

概要

ソニーが法人向けBRABIA「BZ35F/BZシリーズ」を発表したのは3月のこと。TVチューナーを搭載せず、NHKを含む全てのテレビ放送が映らない。Android TVを内蔵しているため、各種アプリケーションを導入することでNetflixを始めとしたストリーミングサービス・ネット動画を単体利用可能な製品となっている。単なるモニターに留まらず「モニター+Fire TV」の様な機能を持ち合わせていることが最大の特徴だろう。

経緯

NHKが映らない「テレビ」として大きな注目を集めているが、ソニーは飽くまで業務用「ディスプレイ」として本製品を発表している。「NHKが映らない」の文言もネットメディアが勝手にまくし立てた内容であり、事実とは異なる。

「NHKが映らない」という言葉が一人歩きする原因にもなったのは6月に行われた株主総会での質疑応答。吉田社長の前向きとも取れる回答も合わせて「NHKが映らないテレビ」をソニーが発表するのでは?との憶測が広まった。3月発表タイミングでも既に「NHKやテレビが映らない」とキャッチーなタイトルで注目を集めている記事が散見される。

その後、発売前の製品発表のタイミングで上記ツイートやメディアブログ「Socius101」の記事で「NHKが映らないテレビ」の誤解を招く形で情報が拡散。同ブログではその後、下記の「お詫び」が掲載されている。

【お詫び】

表現について誤解を招くものがあったので、タイトル並びに本文を訂正しました。ソニー関係者各位及びサイト読者の皆様には、深くお詫び申し上げます。

思惑

ソニーとしては通常の業務用モニターを発表しただけのつもりが、思わぬ形で注目を集め困惑している状況だろう。では、ソニーとしては「NHKが映らない」テレビに乗り気ではないのか。調べてみるとそうとも言い切れない企業戦略が垣間見えてくる。

民放5社と協力

期間限定だけどTVerアプリがAndroidTVに来たよ!録画する事自体が過去のモノになってしまうのか!?

ソニーはAndroid TV向けに民法公式テレビポータル「TVer(ティーバー)」を視聴できるアプリを1月から3月までの期間限定でテスト配信している。背景には進む「テレビ離れ」から「ネットコンテンツ」需要を見込んだソニーの企業戦略やネット放送への移行を推し進めたい民放各局の思惑が介在している。テスト配信の結果を調査した上で見込めるユーザー獲得、利用状況データを集め、TVerを運営する民法5社に対してコスト面での課題も残る「リアルタイム配信」を促したい考えもあるのではないだろうか。ソニーと民法各局が水面下で議論している事はまず間違いない。

ネットの同時配信へ

民法公式テレビポータル「TVer」が現状出来るのは一部TV番組の「見逃し配信」に留まっている。テレビの放送と同時での「リアルタイム視聴」には対応していない。しかし、ラジオでは2010年時点で既に民放連がタッグを組み「radiko.jp(ラジコ)」でのサイマルに踏み切っている。ラジコはIPアドレス情報を元に地域を判別、現在エリアの放送を聴ける仕組みが用いられている。危機感を感じたNHKは共同キャンペーンとしてradikoでの実験配信を2017年10月に遅れて開始、現在も正式対応はしていない。ネット放送でも受信料を集めたいNHKの慎重な姿勢が垣間見える。

既に発表されている通り、NHKはテレビ放送をインターネットでも見られる「常時同時配信」について2019年度のサービス開始を目指して準備を進めている。最終的にはインターネット利用者からも受信料を集めたい思惑もあるはず。対抗する民放連が「radiko.jp」同様に先手を打って同時配信を始めることは十分考えられるだろう。「NHK」対「民放各局」の構図も見えてくる。

BtoB需要

インターネット配信に対する民放、NHKの戦略に対し、ソニー側のメリットは対企業での莫大な需要が見込めることだろう。現状、NHKはホテルに対しても「1部屋1世帯」と換算して受信料支払いを求めている。「東横イン」の裁判では全国235のホテル全室のテレビ3万4000台に対して、25ヶ月分の受信料19億3000万円の支払いを命じる判決が話題となった。つまりテレビ1台につき2,270円/月をNHKに支払っている計算であり、これを浮かせることができれば大幅なコスト削減となる。結果としてホテル利用料も安く出来るため利用者にもメリットがある。

感想

現在は企業向けの商品展開となっているが今回の反響を見て本格的に「NHKが映らない」製品の開発に踏み切ることは十分考えられる。筑波大学准教授である掛谷英紀氏が開発したNHK帯域除去フィルタ機器「イラネッチケー」裁判ではNHKは「間違って請求書を送った」「債務は不存在」として「受信機の廃止」に該当するかの判決を意図的に避け逃げている。(参考)ソニーが同様に「NHK帯域除去フィルタ」を固定・取り外し不可とした製品を発表したならば上記判決から考えても受信料を払う必要は無くなる。毎月の出費やNHKに対するヘイトを考えても消費者需要は高いはず。平井社長(現会長)就任以降、尖った製品を発表し続ける「昔のソニー」が戻ってきたように感じている。今回の件はネットメディア特有の誤情報が広まる形ではあったが、消費者需要を浮き立たせる上で重要な意味を持っていた。NHKとはスポンサー関係も無いので国内電機メーカーも是非開発に乗り出し、本格的な「NHKが映らないテレビ」の発売に期待したい。


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