前回『傷物語VR』について記事をまとめたので、VRと単なる360度動画の違いについてハッキリさせようと思う。
目次
VRとは?
そもそも「VR」とは「Virtual Reality」の略であり日本語では「仮想現実」と訳される。
その定義は「コンピュータによって人工的に作られた世界(サイバースペース)を現実として知覚させる技術」とされている。
特徴
VRの主な特徴としては下記の3点が挙げられる。
- 三次元の空間性
- 実時間の相互作用性
- 自己投射性
空間性
三次元の空間性とは人間にとって自然な三次元空間が周りに構成されていること。
人間が3次元空間を認識するためには奥行きを感じられる即ち立体視の仕組みが必要となる。そのためVRを実現するHMDやVRアプリには右目と左目の映像が個別にレンダリングされる。画面描画に掛かる負荷が単純に2倍となるため、レンダリング負荷も解決すべき課題となっている。
この空間性は3D映画も視差を利用するという点で同じ仕組みとなっている。しかし3D映画を見ても我々はそれを現実として近くすることは無い。それは次に述べる相互作用性が無いためである。
相互作用性
仮想空間を現実と知覚するためには相互作用性も必要となる。相互作用性とは対象者の行動に反応して空間あるいは物体が変化する特性のことを指す。
例えばWiiに代表される体感型ゲームではコントローラーを振るとそれに反応し画面内のキャラクターが同じ動きをする。これは自身の実時間における行動に対応する変化が発生しているため相互作用性があると言える。
また、ヘッドトラッキングに応じたカメラの空間座標の変化も相互作用性に含まれる。相互作用性の実現にはVR用のコントローラーを始めとしたデバイスも重要となる。
自己投射性
自己投射性とはある空間に対して矛盾を感じずに入り込める特性のことを指す。
我々が存在する空間では「自分の手の位置」に目を向ければ当然そこには「自分の手」が存在する。しかしVR空間においてそれは必ずしも保証されない。
またVR空間内で前に移動したとしても現在のVRコンテンツの多くでは加速度を感じることもない。これが一般的に「VR酔い」と呼ばれる症状が発生する原因となっている。
その他VR空間内で発生する風・匂い・水しぶき・熱といった要素を感じられないことも自身がそこに存在しない、矛盾した感覚を感じさせる原因となる。現在のVR技術においてはこの自己投射性が最大の課題だと言える。
360度動画について考える
現在の世の中の360度動画は右目と左目の視差が存在しない単なる全方位動画がほとんどである。問題はこの360度動画をVRとして売り出している企業と勘違いしてる馬鹿が存在することである。
上記VRの特徴と照らし合わせると分かるが単なる全方位動画には「空間性」「相互作用性」「自己投射性」のいずれも存在しない。唯一あるのは「向いた方向に応じて映像が変わる」程度の相互作用性である。
360度動画でVRを謳う場合は最低でも下記が必須だと思う。
- 左右の視差(3D)に対応
- バイノーラル録音済み
- それらを活かすコンテンツ作り
今は安価で360度カメラも購入できる。しかしそれを使って適当に撮影するだけではVRコンテンツと呼ぶのは大きな間違いである。
重要なのはコンテンツ
無論上記の特性を満たしていない場合でも十分に臨場感を感じられるコンテンツは多い。過去に紹介したYouTube動画も既存のVRコンテンツに劣らない素晴らしい作品ばかりである。
結局のところ最も重要なのはコンテンツだと言える。普段行けない空間や普通に生きていたら出来ない体験、「心」を動かす何かがあってこそVRの価値が発揮される。『傷物語VR』もそうだったがVRコンテンツは必ずしも現実に忠実に作る必要はない。現実ではあり得ない体験ができるのもVRの大きな魅力だと言える。
現状はVRというジャンル自体が珍しいためコンテンツ品質が低くても許される傾向があるが、本質として前述の特徴を意識したコンテンツ作りをしていないVR作品は前時代のものとして淘汰されていくだろう。
参考:VRの特徴がよく分かるPS VRゲーム
参考に上記のVRの特徴が良く分かるゲームをまとめておく。
空間性
PlayStation VR WORLDS
『PlayStation VR WORLDS』はVRコンテンツのお手本とも言える作品の詰め合わせとなっている。特に『オーシャンディセント』と『ロンドン ハイスト』の映像クオリティと音、等速移動を駆使した酔い対策は素晴らしい。
VRゲームのクオリティを判断する指標となる作品だと言えよう。
相互作用性
Job Simulator
『Job Simulator』はVR空間で仕事体験が出来るゲーム。ものを掴む・投げるボタンを押す等を両手のMoveコントローラーを使って行う。ゲーム内に干渉できる要素・自由度が他のVRゲームとは段違いに多い。画像で言えばコピー機でボールを複製しているシーンである。用意されたオブジェクト同士の相互作用も多く楽しい仕事体験が出来る作品。
2017年のGDCでもBest VR/AR Game Awardを受賞している名作。なお本作の開発の経緯はGAME Watchの記事が詳しい。
自己投射性
バットマン:アーカムVR
『バットマン:アーカムVR』はVR空間でバットマンになれる夢のゲーム。物語性・映像美もさることながら自身の腰からバットラングを投げたり、グラップネル・ガンを取り出して離れた場所に移動したり自身がバットマンとしてガジェットを使っている感覚を得られる。
また、ゲームを進める中で自身がバットマンだと自己投射してきた後のゲーム終盤のアイデアが素晴らしい。衝撃のラストをVRでしか味わえない体験で楽しめる傑作。
以上、PS VRにおけるお勧め作品も紹介してみた。PS VRのゲームについては他記事でも紹介しているので参考にしてみて欲しい。
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