CEDEC2017ゼルダの伝説BotW講演でゲーム業界は5年進む

日本最大のゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC 2017」が9月1日まで開催された。現在、その会場で講演された任天堂による『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』のセッション内容が大きな話題となっている。

今回は本講演によってゲーム業界が受けた影響と講演から分かった任天堂のゲーム会社としての強みについて解説してみる。

講演内容まとめ

『ゼルダの伝説BotW』に関するセッションは以下の8つが実施。紹介記事で分かりやすいものをまとめておく。

『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』におけるフィールドレベルデザイン ~ハイラルの大地ができるまで~

『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』のプロジェクト運営 ~試作から製品までシームレスに!~

『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』の遊びと物量を両立するための制作パイプライン・TA事例

『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』におけるQA ~ゲームの面白さを最大化するツールやデバッグの紹介~

『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』 ~広大で生き生きとした世界を奏でるオープンエアーサウンド~

レイヤーで描く『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』の世界 ~3Dグラフィックスのアートと実装~

なし

『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』 ~エフェクトは「目指す表現」と「膨大な物量」にどう取り組んだか

なし

『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』のUIが目指したこと~世界に溶け込み、かつ印象的なUI表現

ゲーム業界にとっての価値

記事を一つでも読んでいただいた方は分かると思うが、本公演はゲーム業界にとってハード1世代分、5年の価値はある内容となっている。『ゼルダの伝説BotW』自体が革新的なオープンワールドゲームであり、その革新性がいかにして作られたかが丸ごと分かる講演なのだからこの価値判断は妥当だと思う。

また、今まで任天堂はCEDECに出展はしていたが、自らセッションは行っていなかった。今回は任天堂が培ってきた社内ノウハウが初めて、業界に惜しみなくさらけ出された歴史的な講演と言えよう。

本公演でゲームという文化は1サイクル先に進むことが出来る。1ゲーマーとして任天堂に感謝したい。

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任天堂の何が凄いのか?

なぜ任天堂が歴史に残る傑作ゲームを作れたのか。その強みは講演内容や過去の発言から分かってくる。

明確なビジョン

任天堂の企業としての強みの一つはプロデューサーやディレクターなど決定権がある上層部が「明確なビジョン」を持っていることだろう。

具体的には本作でディレクターの藤林氏がやりたかったことは「広いフィールドでユーザーが自由に遊べるようにする」ことであり、そして「フィールドを探索することで、ワクワクする体験に次々と出会い、それを自由な発想で攻略できる」を目標としている。(GDC2017セッションより)

上記の言葉にはゲームを方向づける強い単語「自由」「探索」「発想」などが含まれている。構想段階でゲームとして目指す方向が明確だったことが窺える。

また、本作では開発メンバー全員が開発途中の作品を試遊して確認を繰り返した話が有名だが、これも全体での「ビジョン」共有に役立っている。打ち出された目標に向かってメンバー全員が一丸となり、取り組めた結果が出ていると言えよう。

理詰めの問題解決

講演内容を知るまで任天堂はアーティスティックなゲーム制作をしている印象が強かったのだが、むしろ真逆だった。本作は開発メンバー全員による理詰めの問題解決の集合によって世界が作られている。

プレイヤー誘導を行う「引力」という発想もその一例である。前述した「目標」達成のための手法として

  1. 「点と線」のロジックで誘導を用意
  2. 狙い通りか行動ヒートマップで確認
  3. 失敗原因の考察・追求
  4. 「引力」という代案
  5. 同条件でヒートマップ調査
  6. 改善を確認

企業としてはPDCAの一環とも考えられるが理系の実験とも同様である。いずれにしてもロジカルな手法で改善出来ていると考えて良い。

この「理詰めでの問題解決」をフィールド制作でも同様に行っている。

  1. デモステージを作成して試遊
  2. プレイして感覚から来る問題点を考察
  3. 改善案をステージ上にふせんとして残す

という行動をメンバー全員で行っている。その改善の積み重ねが最終的に魅力的なハイラルの大地となっている。

何気なく歩く風景がここまで計算づくのデザインだったとは驚きである。ゲームを遊ぶプレイヤー心理を完全に掌握した任天堂のノウハウは目を見張るものがある。

企業風土

上記の問題解決を全員で行える裏には任天堂特有の企業風土、風通しの良さがあると思う。

作品作りの中には1人の天才アーティストが思い描く世界を全員が協力して作り上げるものも存在するが、『ゼルダBotW』はそうではない。一つひとつ、一人ひとりの「こうしたら面白い」の積み重ねの結果が『ゼルダBotW』である。

この積み重ねが非常に難しい。情報共有ツールを活用するだけでは達成できず、単に仲が良いという次元の話でもない。集団での作品作りは往々にして価値観のぶつかり合いとなる。この解決にはトップダウンで決定するか、当事者同士が議論し納得できる案を模索するしか無い。任天堂は後者の方法を取れるだけの(金銭的)余裕と企業風土を持ち合わせている。

任天堂ほど優秀な人材を抱えた状態で集合知を上手く活用できている企業は世の中でも限られるだろう。

感想

改めて任天堂が世界一のゲームメーカーだと確認できる素晴らしい内容だった。

プレイヤーの誘導や一挙一動のケース想定、面白さに対する考え方が他のゲームメーカーとは数段レベルが違うのを感じた。特徴的だと感じたのは記号化の上手さである。

任天堂のゲームがヒットした要因は日本人ならではのデフォルメの上手さにある。これはレベルデザインにおける記号化と同義であり、日本人は言語性からも分かる通り物事を抽象化して考えるのが得意な傾向が強い。

その記号化の考え方を活用し、必要なエッセンスだけを取捨選択する手法が未だに任天堂内で活きていることが何よりの驚きだった。ゼルダは結果的に記号の集合になったものだと勘違いをしていた。良い意味で裏切られた。

今後の任天堂作品はハードの制約も改善された今、『ゼルダBotW』に次ぐ素晴らしい作品が数多く登場すると思う。まずは10月27日発売の『スーパーマリオ オデッセイ』に期待したい。


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