『スパイダーマン』のMCU離脱が大きな話題となっている。この理由を単に「お金」の問題と誤解している方も多いので状況を整理してみたい。ちなみにディズニーが興行収入の50%を要求してるーは嘘。
権利関係
スパイダーマンMCU離脱について友達に「何で?どういうこと?」と聞かれて説明がめんどくさい人のためのアメコミ映画界大人の事情4点セット。https://t.co/Ks5PXIrlVphttps://t.co/Uhnu4B95XChttps://t.co/i5ZrbSgd6k
スパイディ、映画の中でも外でも大人の事情に振り回されてて不憫でしかない。 pic.twitter.com/22KGAFcdPN— ウラケン・ボルボックス📕『侵略!外来いきもの図鑑』🐢好評発売中🐝‼️ (@ulaken) August 20, 2019
『スパイダーマン』及びアメコミ映画の権利関係と流れを分かりやすく説明しているのが上記の図。ざっくり下記の流れ。
- 1980年代:マーベルが経営難に陥る
- 各キャラクターの映画化権を他社に売却
- スパイダーマン → コロンビア
- X-MEN → 20世紀フォックス
- ハルク → ユニバーサルスタジオ
- 2011年:ディズニーがスパイダーマンの商品化の権利を獲得
- アメイジング・スパイダーマンは2作とも不調
- 2015年:ソニーとマーベルがパートナーシップ締結(MCU入り)
- 現在:ディズニーによる共同出資提案をソニーが拒否(MCU離脱?)
収益配分
現在の『スパイダーマン』シリーズ及びMCUにおける両者の収益配分は下記の通り。
- ソニー
- 製作費(対マーベル含む)は全額負担
- 『スパイダーマン』作品の興行収入は独占
- MCUに『スパイダーマン』貸し出し
- マーベル
- MCU関連の利益を独占
- 『スパイダーマン』作品公開初日の興行収入5%のロイヤリティ
- おもちゃ商品化に関わる全ての利益
- ソニーからの製作費
つまりソニー側が『スパイダーマン』、ディズニーが『MCU』な分かりやすい構図。『スパイダーマン』も貸してるだけ。
MCU加入の背景
そもそも2015年のパートナーシップ締結は何故行われたのか?両者の思惑は下記の通りだと想像できる。
ソニー
『アメイジング・スパイダーマン』で不調に陥った『スパイダーマン』ブランドをMCU入りで復活させられるかも。人気が戻れば『スパイダーマン』作品で利益を独占できる。
マーベル
超人気キャラクター『スパイダーマン』をアベンジャーズにロイヤリティ無しで参戦させられる。『スパイダーマン』作品の製作が続ければ、製作費を受け取りつつ初日興行収入の5%を獲得可能。人気が戻れば玩具売上も伸びる。
MCU離脱の背景
映画スパイダーマンについて情報が錯綜しているけど、
・まだMCU離脱が決まったわけではない
・「ディズニー側が50/50の利益配分を求めている」というのは誤訳で、”50/50 co-financing arrangement”、つまり、「50/50の出資関係(資本関係)を求めている」が正しいってのは抑えておいて
— FAQちゃん (@faqfaqyou) August 21, 2019
では今回の離脱騒動に陥った原因は何だったのか。Deadline.comによると噂される論点は下記の通り。
- ディズニーが『スパイダーマン』作品に対し50対50の共同出資を提案
- 収益に対しても現状の5%から改善を求める
- 『スパイダーマン』映画製作からケヴィン・ファイギを外す
大手まとめブログで書かれてる「興行収入の50%を要求」はソース確認せずに誤訳を鵜呑みにしただけで50対50の共同出資を持ちかけただけ。収益配分については具体的に触れられてなはず。
両社の思惑
本当にスパイダーマンは原作から不運なヒーローだよなぁ😅
利益とか大人の事情より、先日公開されたこのリーフカバーみたいになって欲しいんだが💦 pic.twitter.com/GJBxDR2Ue4— くまたろー (@takakuma0204) August 20, 2019
交渉が難航している原因は何なのか。両社の状況を踏まえて考察してみよう。
ディズニー
- マーベルが単に製作下請けとして『スパイダーマン』に関わるのではなく、共同出資する形で映画内容に対するフェアな決定権を持ちたい
- 映画内容も含めてMCUに絡めやすくしたい?
- ソニーが管理する『スパイダーマン』関連のキャラクターIP(900以上)を活用したい
- 「スター・ウォーズ」の玩具売上は約854億円
- プロデューサー兼マーベル社長のケヴィン・ファイギが人質
ソニー
- 自社IPとして決定権を持ち続けたい
- 提案されている収益配分が高すぎる?
- ファイギなしでもやっていける
感想
ソニー本社のスパイダーバース展示いいな。 pic.twitter.com/fkcdKSpjb1
— taro kanamoto (@taro_kanamoto) April 16, 2019
SONYとしては単独でも『スパイダーバース』のような作品を作れるし、昨日の「インソムニアック買収」の流れからも『スパイダーマン』自体を自社IPとして最重要視していることが伺える。それを『スターウォーズ』のように乱造・使い捨てられる事態だけは避けたいのだろう。今やSONYにとってゲーム&ネットワークサービス事業は屋台骨となっており、来年以降に発売されるであろうPS5は大きな転換点となり得る。世界累計1,320万本を売り上げた『Marvel’s Spider-Man』はPS4の販売数を大きく伸ばした独占タイトルであり、評価も非常に高い。SONYが目指すエンターテイメントの形と『スパイダーマン』の相性、自社IP強化の観点からも決定権だけは譲れないのだろう。スパイダーマンの映画化権利獲得の経緯からも財産として重要視する想いが汲み取れる。
今は交渉の行方を見守るほか無いがファン全員が幸せになれる形で決着が付くことを願いたい。
追記:ケヴィン・ファイギのプロデューサー離脱をSONYが認めました