日本ユニセフ協会が公開した「日本ユニセフ協会に関するデマやご情報にご注意ください」の注意喚起内容が大きな話題となっている。
目次
日本ユニセフ協会に関する「デマ」
日本ユニセフ協会が「デマ」と主張する具体的な例は下記の通り。
- 日本ユニセフ協会は募金詐欺団体。募金を不当に”ピンハネ”している
- 日本ユニセフ協会は偽物(UNICEF東京事務所が本物)
- アグネス・チャンは、ユニセフ募金で家・事務所を建てた
- 日本ユニセフ協会は”天下り”がいる
確かにネットにはソースの存在しない「デマ」や著しく偏った主張をまとめたブログも多い。今回は本件について可能な限り中立な立場で考えてみたい。
ピンハネ
今回、最も大きな話題となっているのが募金における活動費の割合だろう。日本ユニセフ協会によると募金における約20%弱を募金活動や広報、アドボカシー活動、人材育成、学習活動などの費用にあてている。この割合が適正か否かについては後述。
偽物
日本ユニセフ協会はユニセフ本部の承認を受けた公式窓口である。しかし、国際連合児童基金(ユニセフ)ニューヨーク本部と組織系統上の繋がりは存在せず飽くまで資金援助を募る民間団体でUNICEFの日本支部ではない。そもそも「偽物」の主張自体「公的な団体か否か」を焦点とした議論ではなく、前述のピンハネ問題を主軸とした感情論の部分も大きい。
豪邸
20%ピンハネでこれだけの豪邸が建つんだから、相当騙されて寄付してる人が多いってことだなあ。 pic.twitter.com/h8asgMlQn2
— 七生報國山口二矢 (@AdisabledPerson) 2018年6月19日
ユニセフ叩きの際によく使われているのが上記の画像。親善大使である「アグネス・チャン」があたかも募金で豪邸を建てたかのように誤認させる悪意が感じられる。上記の豪邸が建設されたのは1995年であり、日本ユニセフ協会の親善大使に就任したのは1998年なので時系列的にも無関係。
また、建設費25億円で建てられたユニセフハウスも同様に批判の的になることが多い。しかし、このユニセフハウスの本部ビルは31年間にわたり積み立てられた「公館建設積立金」で建てられており、無計画に購入したものではない。そもそも真っ当な企業で働いたことのある社会人なら自社ビルを持つメリットは分かるはずで建物自体が資産となるほか、オフィスビルを賃貸し続けるよりもトータルコストを抑えられる。実際に維持管理費は以前の4倍の床面積になったにも関わらず、以前より安く抑えられている。(参考:ユニセフハウスについて)
争点
活動費の妥当性
20%弱の活動費という割合が妥当か否かについてだが、HPで公開されている支出内訳を確認する限り目立って不透明な部分は見当たらず全体のうち事業運営費・人件費の割合は僅か2.5%にしか過ぎない。
人件費
社員が高給取りとの憶測を挙げる方も居るが当然ながら財務諸表は全てHP上で公開されている。この中で2018年度の正味財産増減計算書を確認すると人件費に関する項目の各合計金額は下記の通り。
- 役員報酬:18,063,000円
- 給料手当:313,788,000円
- 福利厚生費:53,338,000円
- 退職給付費用:23,352,000円
- 賞与引当金繰入額:5,159,000円
人件費の全体合計は413,700,000円。約4億円で経常費用全体における割合は約2.2%となる。
より細かく計算してみると職員数は56名(2017年4月1日時点)なので1人あたりの給料は560万円/年。福利厚生費や賞与引当繰入額、退職給付を加えても700万円であり、一般的な企業と比べて飛び抜けて高いとも言えない。役員報酬については名簿を確認する限り19名で単純に割ってしまえば一人あたり100万円にも満たない。寄付金で暴利を貪っているとは言い難い内容だろう。
募金活動事業費
日本ユニセフ協会の財務については、公益財団法人への公開義務ということに則って、ちゃんと公開されてる→ https://t.co/S3WFS5puWl
募金活動事業費の中でも突出している
・業務委託費 1,406,103,427これ、ユニセフから業務委託される先ってどこなんだろうねー。公開情報には載ってないや。
— inuchin (@inuchin) 2018年6月19日
活動費19%のうちの12.52%を占めているのは「募金活動事業費」である。その中でも業務委託費は14億超えと突出している。ユニセフはDMによる募金キャンペーンやインターネット募金、各種イベントを通じた募金など様々な活動を実施している。例えばネット募金可能なシステムを構築をユニセフが自前で出来るわけが無いので業務委託自体はどうしても発生してしまう。
課題となるのは業務委託が妥当な契約金額で行われているかだと思う。この業務委託先や具体的な割合が公表されない限り「天下り」の疑いは晴らせないだろう。
本部業務分担金
19%のうち4%の割合を占めるのは「本部業務分担金」。これはユニセフ本部と各国委員会が共同で行う各種キャンペーンに対する分担金とある。
6月17日は #父の日 ユニセフは、子育てにおけるお父さんの役割を広く伝え、その重要性を認識していただくため、父と子の写真を投稿する #SNSキャンペーン を開催しています。https://t.co/jShjJfYApp#EarlyMomentsMatter pic.twitter.com/XeDleESAde
— 日本ユニセフ協会 UNICEF東京事務所 (@UNICEFinJapan) 2018年6月15日
分担金の用途は個別の活動ごとに判断する形となるが、該当すると思われる6月17日「父の日」キャンペーンでは子育てに関するSNSの投稿を呼びかけたり、○☓クイズなども用意していた。こういったキャンペーンを日本でも共同開催するために費用が使われるのだと思う。とはいえ何故7億円もの費用がかかるのか詳細は不明。
宣伝事業
残りの2%弱を占める「啓発宣伝事業費」「啓発宣伝地域普及事業費」の内容は分かりやすい。
- 各種刊行物の作成
- HPの作成・更新
- セミナー、シンポジウム開催
- 広報・キャンペーンetc
※「地域普及」の活動は上記を全国26の地域組織で行うための費用
宣伝する金があるなら「寄付」に回せという主張は善意によって勝手に金が集まると勘違いしている。現在のユニセフが180億円近い寄付金・募金を集められているのは間違いなく宣伝事業によるお陰であり、宣伝行為を全く行っていなければ我々は存在を認知すらしていない可能性もある。寄付を募るには時間・お金に関わらず相応のコストが掛かることをまず理解する必要があるだろう。
強いて言えば宣伝による費用対効果の測定は気になるが宣伝事業については「問題周知」の側面もあるため、一概に寄付金額による判断は難しいところ。
UNICEF東京事務所について
ユニセフ東京事務所は日本ユニセフ協会と協力関係にあり、今回の騒動も東京事務所にとってマイナスにしか働いていない。ユニセフ東京事務所では日本・韓国の協力団体と協定を結び支援活動を行っている。日本における協力団体が日本ユニセフ協会であり委託を受けた日本ユニセフが募金活動を実施、ユニセフ東京事務所を通じて資金が必要な地域に支援が行き渡る仕組みとなっている。
問題を複雑化しているのがユニセフ親善大使である黒柳徹子の存在。黒柳徹子は個人としてUNICEF本部と直接パイプを持っており、黒柳宛の募金は「トットちゃん」HP上で行われている。HP上で公開されている黒柳徹子の個人口座宛に募金を行うと全額がニューヨークのユニセフ本部に送られる。お金が活動費に使われる「日本ユニセフ協会」よりも全額送ることが出来る「黒柳徹子」の個人口座が良いという考えもあるが、内訳は非公開。黒柳徹子個人に対する信頼のみで成り立っている。また、黒柳徹子の個人口座を介しての送金は領収書が発行されず税制上の優遇措置も受けられないため、結果として寄付できる総額は少なくなってしまう。
100%届くからくり
被災地募金 ユニセフの場合、募金の最大25%程度が活動費に使われ、子供を対象とした活動のみ 日本赤十字は全額被災者と自治体に渡ります。 1000円募金すると、日赤なら1000円が被災者に ユニセフでは750円が被災地の子供のために どちらが正しいか
— 渡邉哲也 (@daitojimari) 2016年4月17日
上記の理由があっても「黒柳徹子を介した寄付」あるいは「日本赤十字社」への募金が勧められる理由はその100%が被災者・支援のために使われるという謳い文句からだろう。
勘違いしている方も居るが日本赤十字社も同様に広報・普及や事務管理のための活動費用が使われている。ユニセフと異なる点はこの活用費用は「社員」の支援で賄われている点。ここでいう「社員」は日本全国の資金協力をしている個人・法人を指し、毎月500円以上の支援をすることで誰でも登録できる。(参考:赤十字活動資金のしくみ)つまり、支援者からお金を集めて活動資金を捻出している点ではユニセフと何ら変わらない。違いは活動資金を「誰が」負担するのかという点に尽きる。
ボランティア活動の誤解
ユニセフの自社ビル購入による恩恵は前述したので、アグネス・チャン個人に対する批判について考えてみたい。繰り返しになるがユニセフが公表している通り、アグネス・チャンは無償で活動している親善大使である。アグネス自身がお金持ちなことと日本ユニセフ協会とは何一つ関係が無い。
それでも個人攻撃が加熱する要因はボランティア活動に対する誤解が根底にあるように思う。募金活動やボランティアを行う人は無償で世の中のために「尽くすべき」と考えている人が多い。極端な話ではユニセフ・日本赤十字社の活動も「1円も金を掛けるな」と極論を述べている輩も見られる。
ボランティアに限らず社会活動で重要なのはその行動が持続可能なことである。活動費を抑えたが為に活動そのものが止まってしまっては何の意味もない。全ての行動にはコストが伴い、そのコストを単なる個人の「善意」に頼るのでは活動そのものが立ち行かなくなる。「活動費」の下支えがあってこそ安定した支援が成り立っていることは疑いようが無い。
まとめ
「活動費の妥当性」で述べた通り、日本ユニセフ協会の資金の流れには不透明な部分があることも事実である。しかし、集まる支援の金額・規模を考えれば仕方のない範囲であり全てを公表し、明らかにせよという論旨は現実問題として不可能だと個人的には思う。少なくとも公開された会計情報を確認する限りは一部ブログが印象操作したような極悪組織ということは無い。今回の件を誹謗・中傷している人たちのうち何割が情報元を調べているのだろうか。公開された収支・活動報告にすら目を通していない人が大半だと思うし、誤解している方は元からユニセフを支援していないはず。
私自身も情報を自分で調べ直す前はユニセフに対して良い印象を抱いていなかった。改めてインターネットにおけるソース確認の重要性、情報の取捨選択の難しさを思い知らされた。今回の件における「日本ユニセフ協会叩き」は行き過ぎな感があるが、日本ユニセフ協会が素晴らしい団体とも考えていない。今後、災害時の募金を行う際は以前と変わらず日本赤十字社を利用すると思う。重要なのは各々が情報を調べて見極め、「自分の考え」で選択できるようになること。本記事についても飽くまで一意見として参考情報として欲しい。
コメント
後ろめたくないなら 監査を受け入れればいいだけ
コメントありがとうございます。
日本ユニセフは監査報告を公開してますよ?意味不明です。
ありがとうございました。
ユニセフのことはともかく、私が子供のころから「アフリカの子供たちが~」という話はずっと聞かされている気がして、いい加減にどうよと思ったりはします。大昔は「バングラデシュの子供たちが~」という話もありましたが、実際バングラデシュの経済規模は大きくなっていますし(2015年、ダッカ証券取引所の上場企業の時価総額は400億ドルを超えました。Wikipedia)、単にドルベースで所得が低いってだけで、みんな困ってるのとは違うのでは?と思ったりもしています。
要するに、あとはバングラデシュ政府の立ち回りや政策に任せるべきであって、うちらが口を出す必要が本当にあるのか?とかそういった疑問もあって、なんか募金を募る団体に対して、ちょっと疑心暗鬼になっている人たちが多くなってきているのではという気がします。「やってあげたい」という自己満足なんじゃないか…とかね。
むしろ、どこかで災害が起きたときとかのほうが、まー、ちょっとは助けになろうかなぁという気がするのではないでしょうか。日本は災害が多いのもあるので。いずれにしろ、「アフリカの子供たち」は長いこと飢えすぎです。もう数十年、かなりの資金が入っているはずですし、これだけ長いと本当に「活動」が現地の人々の自立の助けになっているのか?という疑問を呼び起こすこともあるんじゃないかなぁ、と私は思います。せっかく広報をするなら、その辺の情報を、もっと出してもいいのかと。もう「アフリカの子供たちが飢えています」だけじゃ、ほんとかよと思われても仕方ないかも。
ユニセフに寄付しようかと思い調べていたところ、このページにたどり着きました。
記事の内容は公平な観点で書かれておられ、参考になりました。不透明な点はありますが、日本において国連ユニセフに募金する正規な組織であることは理解しました。
1点指摘になりますが、「役員報酬については名簿を確認する限り19名で単純に割ってしまえば一人あたり100万円にも満たない。」とありましたが、2018年度の年次報告を確認したところ、「日本ユニセフ協会の役員は、常勤の専務理事をのぞき、会長以下すべ
ての役員は全員ボランティアとして協力しています。」とありましたので、常勤の専務理事お一人にに1800万円の報酬となっているようです。特に報酬額に対する批判ではないことは一応捕捉させていただきます。
私の書くことが本当に正しいのかそうでないのかは分かりませんが、40年くらい前に実際に経験した事を書きます。
ベトナム難民支援のアグネスチャリティー公演の件です。
友人がチケット販売の代理店に勤務しており、妻と私のチケット二枚合計5000円位で購入しました。
当日市民会館に公演30分前に着きました。
入口には募金箱を抱えた多分ボランティアが列を作って募金を勧めてきました。
場内で着席しても、募金の勧めが絶え間なく来ました。公演は和太鼓の演奏が長い間続きました。この時も募金を勧める人が盛んに客席の間を移動してました。私はいつまで経ってもアグネスは出ないし、募金募金に少し興ざめで入場から一時間位で帰宅しました。後で友人に顛末を話したら、チケット代金はアグネスや出演者のギャラであり場内での募金が寄付だよと説明されました。ともかく疲れただけでした。結果私の代金はアグネス達の収入だったのかも?それからは確かな根拠はありませんがチャリティーに疑いを持って確かなものだけに参加するようになりました。一般の寄付も主催者の人柄や組織の歴史を確かめて参加しています。自分で確認は大切だと思います。私個人的にはアグネスを批判するきもありません。経験した事を書いたまでです。
私は毎月自動引き落としでユニセスに募金しています。今までどこに募金すればいいのか分からず時間だけが過ぎていきました。いろいろネットで調べ、結局は募金先を信じるか信じないか、私はユニセスを信じて募金を決めました。ボランティア活動をする上で広告宣伝費、人件費諸々かかるのは当たり前です。少しでも多くの募金額が貧困地域の子供達に使われることを望んでいるのも事実で私は今でもそう思っています。しかし、募金額の何%が人件費だ、広告費だ、そんなことを考えていたら募金はずっと出来ません。様々な批判がネットにはありますが、私はこれからも続けていきます。
>違いは活動資金を「誰が」負担するのかという点に尽きる。
これは微妙に違うと思う
違いは活動資金を「どういう名目で集めているか」という点に尽きる…という方が正確だろう
募金活動の際は、何処かに「募金の何%は活動資金に…」とか書いてあるんだろうが
募金してる人がほぼ認識していない事実からすると、意図的に認識しづらくしてるんだろう
高齢者に遺産の寄付を呼びかけるCMとか、どうやって財産を奪うかばかり考えてそうだし